淡いということ

画像処理のとき、「淡い部分を持ち上げる」という表現をします。

私は淡い部分にこだわって画像処理をしますが、「淡い部分を持ち上げたり」しません
画像全体を持ち上げるのです。その時飽和してしまう部分を抑えることが画像処理だと思っています。

これまで画像処理では細かい部分部分のテクニックをゴチャゴチャ書いてきましたが、系統立てて流れを書いたことはなかったので、まとめることにしました。

2010.7.31追記

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2010.7.24

カラーCCDで撮影した画像はベイヤー配列のうちにいくつかの処理を行う必要があります。
ダーク減算、フラット補正、場合によってはホット・ダークピクセル除去(転送ノイズ除去)は必ずベイヤーRGB変換前に行わなければなりません。

その後、ベイヤーRGB変換を行います。

しっかり位置合わせをしながら加算平均でコンポジットすると左のような画像になります。
これが全ての元になるわけで、正確なダーク画像(+バイアスノイズ画像)、正確なフラット画像が最後の仕上がりを左右します。特にSSPを使って淡い部分にこだわるなら、ベイヤー配列で65535あるレンジの700〜800辺りの状態をなるべく良好に保つ必要があります。

参考:バイアス補正、 フラット補正
フォトショップで画像処理を進める場合、ステライメージでのデジタル現像は、この程度までにしています。これ以上レンジを切りつめると見た目ではあまり分かりませんが、明るい部分の階調幅が極端に狭くなって、その後の処理で扱いにくくなってしまうからです。

この状態でレンジ幅は5400ありますから画像としては比較的階調の広い元画像と言うことになります。このレンジ幅をフォトショップ(以下PS)の16bitTIFF形式に変換するわけです。

参考:元画像の掟
デジタル現像の特徴は

左に示すように普通にレンジを切りつめると左上のように明るい部分が飽和してしまいますが、デジタル現像では同じレンジ幅にしても明るい部分の階調が残ると言うことです。

感覚的には明るい部分は狭いレンジ幅に多くの情報が詰め込まれているということだと思います。

参考:ステライメージ公式ガイドブック
このことは、デジタル現像画像ではトーンカーブの明るい部分は階調を圧縮する方向に、いじらない方が良いことを意味しています。そのため、トーンカーブを使う場合には、淡い部分を持ち上げ、中間層の階調を広げるだけに止めた方が良いと言うことです。

これはPSでも言えることで、デジタル現像をほどほどに、と言う理由と同じだと考えてきます。

参考:ステライメージ公式ガイドブック

画像1
ステライメージだけで処理するなら、この後色調を整えたら完成です。俗に「自然な感じて、星像も美しい」と言われる作品に雰囲気似てますね。

空が良かったので、なかなか良い仕上がりです。ダーク減算とフラット補正がきちんと出来ていればあまり手を加える必要は無いのです。

しかし、この状態ではタイトルの「クワガタ星雲」にしては、しゃぼん玉星雲のレンジ幅を適正にしているので、中央のクワガタ星雲は暗く、可哀想な扱いです。

しかし、だからといってクワガタ星雲その物を持ち上げようとしては、いけません。

使うべきでない
マスク


なぜなら、クワガタ星雲の形や周囲の状態はこの画像でははっきり分からないのです。
分からない部分の形に適当なマスクを作って、その部分のレンジ幅を切りつめるのは「お絵かき」です。

画像2から淡い部分を抽出してマスクを作る手もありますが、こちらは大量のレイヤーを必要としますし、淡さの限界部分がどうしても作為的になる気がするので、あまり好きではありません。

画像2
実際レンジ幅を目指す所まで切りつめてみます。

星は肥大化し、背景部分はノイズだか淡い部分だか、はたまた微光星なのか分かりませんが、クワガタ星雲の周囲には非常に淡く赤い?ガスが広がり、部分的に暗黒帯もみられるような、複雑な背景が潜んでいることは分かります。

これは完成作品が目指す星雲の姿だと思います。しかしこれでは鑑賞に堪えません。
画像1と画像2の良い所を合成していく作業が、淡い部分を強調する画像処理なのです。

画像1も画像2もオリジナルのレンジ幅を調整しただけで、人為的なお絵かきは全くありません。
そこで使用することになる代表的なマスクが、左の2つのマスクです。
上は明るい部分だけを取り出したマスク。下は星マスクです。星マスクもある意味明るい部分のマスクと言えると思います。これらの部分をマスクした状態で、その他全てを画像2のレベルまで切りつめていくのです。

すでに階調幅が圧縮されギリギリの状態になっている星雲の明るい部分をいじるわけにはいきませんから黒くマスクし、境界線が不自然にならない領域までぼかして行きますが、これは正に星雲の明るさその物なのです。既に形がはっきりして数字の上でも機械的に分離出来る領域なので、このマスクは非常に簡単にしかも繊細に作ることが可能です。

参考:淡いもの好き


もう1つマスクしなければならない重要な部分が星です。「星マスク」は今では普通に使っていますが、このマスクを作り出せるようになったことが、画像処理技術向上の足がかりだったように感じています。明るい星、暗い星、そして天の川の中にあるような微光星をいかに飽和させずに美しいままの色調を維持するかは非常に難しいです。参考ページが多いことからもこの問題がいかに重要か(上手く行っていないか)が分かります。

参考:恒星マスク(微光星マスク)について恒星の色星を綺麗に輝く星の正体は星マスクの世界

フラット補正なしの
元画像を使用


明るい部分を潰さないように気を付けながら、本来背景になってしまう部分を持ち上げることで、埋もれていた淡い部分が見えてきます。しかし、ダーク減算やフラット補正が不正確では背景の平坦性がないために色ムラや周辺減光・カブリが目立つだけになってしまいます。

参考:フラット補正、背景ノイズの平坦化について背景の色ムラ(RGB分解法)
現在、私はPSの処理を2段階に分けて行っています。

1段階めは、一般的に自然な感じと言われるレベルのレンジ幅の画像作製です。

以前はこの段階までステライメージでデジタル現像などを使って行っていましたが、最近はデジタル現像を控えめにしておいた方が最終的に上手く行くような気がするので、PSを使ってこの程度までレベルを切りつめます。

参考:元画像の掟


DSE画像
上の画像のレイヤーを一旦統合して、それを元画像としてもう1段階レベルの切りつめを行います。なぜ2段階にするのかは「元画像の掟」に書いた通りで、解決策が見つからないので、とりあえずこうしてお茶を濁しています。

ここまで背景を持ち上げると、フラット補正で修正しきれないR,G,B個々の周辺減光や、撮影場所の光害によるカブリが原因の色ムラが見えてきます。これはPS上ではグラデーションマスクか色彩強調画像をマスクに使う以外、上手く補正する方法を見つけられません。色相・彩度の彩度を最大にするレイヤー構造を組んで補正します。実際の光害の方向と画像のカブリの状態に整合性があるかどうかを確認することも大切です。

PSでのレイヤー構造はこの程度です。以前に比べると恐ろしくシンプルで自分でも感心します。欠点の多い元画像をいじくり回して何とか見れる作品にするのも面白いですし、そんなときほど技術的な向上もあるのですが、それはそれです。

PixInsightなどを使うと背景を上手く補正できるときもありますが、私の熟練度では淡い部分が犠牲になってしまうことが多いので、この種の対象ではあまり使いません。Lab分解してL画像の画像復元を行うと淡い部分を強調できる事もありますが、どちらかというとスクリプトになっているDSE(DarkStructureEnhance)を行った方が素人には上手く仕上がります。


2010.7.31
最後の仕上げは、メリハリと色調、そして
フォトショップのレイヤー構造で処理した画像のRGBをみてみると、暗い部分でRが最低値となっています。暗黒帯もレベル50より大きな値になっているようです。一方星雲の明るい部分もレベル200を越えていません。

最後の仕上げはレンジ幅255を最大限有効に使うことと、背景部分の色がグレーになるように色調を整えることです。
まず、画面全体でRを均等に持ちあげて背景のレベルがRGB揃うようにするのですが、この画像では平坦な背景がないためになかなか面倒です。この状態では若干赤が強すぎるような気もします。

P2やV3フィルターを使っている場合は、Labモードで色彩調整を使うと、RGBに加えてYを調整出来るので便利です。

次に、トーンカーブを調整して暗黒帯が50以下、星雲の明るい部分が200以上になるように調整します。この時恒星の明るさが255を越えてしまわないように注意が必要です。ただしこの段階で星マスクを使うと、星の芯がなめられた感じになって輝きません。

淡い部分のレベルは50を若干越えていますが、全体のレベルを5〜10程下げてトーンカーブを使って50以下を平坦にしてしまえば淡い部分を潰して綺麗なニュートラルグレーの背景を作ることも出来ます。私はこのような処理は淡い散光星雲向きではないと思いますが、好みの問題でしょう。
ギリギリまで淡い部分を残して処理するとこんな感じになります。私の好みはこんな感じなのですが、淡い部分のクオリティーは低く、まだら模様も見えています。モニターで見る分にはある程度誤魔化すことが出来ますが、印刷するとゴチャゴチャで星雲が美しくなりません。

ナローバンドフィルターでHU領域を写したモノクロCCD画像を参考にすると赤く見える領域の広がりは確かにこんな感じですが、趣味の世界では正しいからこれで良いとも言い切れません。出来れば綺麗に見栄え良く仕上げたいと思うのは人情でしょう。「だったら、もっと良い機材を買って海外の作品のように10時間程度露出すれば・・・」、非現実的ですね。

これを改善する方法としてRGB分解法を考え出したのです。

通常処理
100%
RGB分解法については、C背景の色ムラは消せるのか? 、Dバイアス補正で詳しく書いた通り、良い点もあれば悪い点もある処理ですが、簡単に言ってしまえば、

カラーCCDのベイヤー配列をカラー画像に変換する際、通常の写真に必要なコントラストを付加する計算方式を使わずに単純にRGB合成することで、暗部の色ムラを軽減する方法

と、なると思います。

この方法を使うことで、作品によっては印刷にも耐えうるクオリティーを得ることが出来ます(今回は寝ぼけてフラット処理を忘れてRGB分解してしまったようで全体をお見せできませんが、煩雑で今の所やり直す気力がありません)。

左の上下はカラー合成のRGB分解法以外は殆ど同じ処理になっています。じっくり比べて頂ければ、私がこだわる理由が伝わるかも知れません。RGB分解法では解像度が犠牲になりますが、そもそもカラーCCDで解像度を極めようとはしないでしょう。一発撮りの手軽さで淡い部分が手に入るというのがカラーCCDの魅力だと思うので、長所を伸ばすRGB分解法にも意味はあると考える今日この頃です・・・。
最後に、一般的なレンジで画像処理するとこんな風になります。

これは淡い部分をならしてあるので、印刷してもそこそこ平坦な背景になります。F4.7の光学系で20分*4枚、合計80分露出だと、この辺が落とし所ですね。

この画像で気になる明るい恒星の滲みを解消しスッキリ仕上げるためには、「LPS-P2フィルターを使わない、露出を短めに切り上げる、頑張れば強調出来る星雲を犠牲にして美しい恒星像を第一目標に画像処理を行う。」という、全く異なるアプローチが必要でしょう。
   
淡いということはノイズと切り離して考えることは出来ません。そうなると一眼デジカメの14bitRAWにもちょっと引っ掛かる気がするのは私だけでしょうか?高感度でフルサイズの5DmarkU、冷却改造X2,D50など天文向けの改造1眼は魅力的ですが、ISOを設定したりノイズを低減するために14bitRAWであるなら、私は受光した数値がそのまま得られるカラーCCDを選びます。低価格の35mmサイズカラーCCDが発売されませんかね。