C背景の色ムラは消せるのか?

直焦点撮影を楽しんでいる天文ファンにとって、冷却改造一眼の出現や低価格冷却CCDは分子雲撮影を容易にしてくれました。とは言ってもカラーCCDで超淡い分子雲を狙うのはやはり大変な作業であることに変わりありません。私もヘボアマチュアの一人として果敢に分子雲に挑んでおりますが、なかなか綺麗に描写することが出来ません。その一番の原因は背景にある大きめの色ムラです。6月にアイリス星雲を撮影した頃から、この色ムラに悩んでいましたが、すっきり除去すると分子雲もすっきりなくなってしまうのです。そんな折、またしてもT-Fixさんのブログで同じような話題が・・・。なんか赤い糸で結ばれているのかも知れません。

EOSでの実験へ 2009.12.16

最終評価 2010.1.12 

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この画像はアイリス星雲をSSProで20分露出した画像に、USB転送ノイズ除去、ダーク補正、フラット補正、ホット・クールピクセル除去まで(長いので今後基本処理と呼びます)行った画像です。コンポジットはありません。1600%なのでピクセルが四角く見えますが、大きめの色ムラがハッキリ分かります。コンポジットすれば消えるような気がしますが、残念ながら消すことは出来ません。 
 
これがコンポジット画像です。こうやってみるとこの時点で星が一回り大きいですね。もっと慎重に重ねなければ・・・。

それはさておき、コンポジットによっても色ムラが消えてないことが分かると思います。T-Fixさんのブログで話題になっていたのも、この色ムラではないかと思います。 
この部分の倍率を下げてみると、中央付近は星の数が少なく、このムラが正に分子雲の中にあることが分かります。色ムラの除去=分子雲の除去と考えてもよいほど分子雲の存在は曖昧です。

トーンカーブで背景のレベルを揃えるとか、NoiseNinjaで消すとか、RGB毎にぼかすとか、そんなことでは分子雲が道連れになってしまいます。このレベルでの色ムラはRGGBベイヤー配列と直結した「カラーCCD宿命の問題」のような気がしてなりません。 
さて、この2枚の画像は、どのように作ったでしょう?

まず同じ1枚の画像に基本処理を行います。左はSI6でベイヤーRGB変換した一般的な画像です。右はR,G,BをバラバラにしてR画像、G画像、B画像を作り、それぞれの欠落部分を補完するためにベイヤーモノクロ現像します。その3枚をあらためてRGB合成した画像です。なおPS上での画像処理はほぼ同じです。

どうです?

右の方が滑らかな感じに見えませんか?実際問題の色ムラもかなり軽減されます。ベイヤー配列画像をRGB3枚の画像に分けるためには専用のソフトウェアを作る必要がありますが、ここまで作ったソフトを改造してプロトタイプを作って試してみました。

本当に効果があるのか、あるいは無意味な処理なのか。私にもまだ分かりません。ただこんな方法を試した人はいないでしょう(最初からモノクロCDを使って撮影すればよいのです)。人のやらない事をやるのは大好きです。
   
2009.12.5

私もどうなるのか分からないのですが、とりあえずこの合成方法を具体的に説明したいと思います。
まず、ベイヤー配列のファイルから、R素子、2つのG素子、B素子のデータだけを持つファイルを3つ作製します。位置情報を保護するために、目的素子以外のデータを0にして 素子のデータ位置は変えません(この作業を自動で行える画像処理ソフトは存在しないので、自分で作りました)。

ベイヤー配列画像は市松模様で頼りない感じですが、ばらすとますます寂しいですね。

このままではRGB合成は出来ないので、3つのファイルをそれぞれベイヤーモノクロ変換します(ベイヤーRGB変換して加算コンポジットでもそれなりの結果になります)。
予想外ですが、4素子の市松模様に1つしかデータが無いRとBは比較的綺麗なモノクロ画像となります。2つの素子を持つG画像はどことなく不自然なモノクロ画像ですね。G画像がくせ者なのはこれまでも経験していますが、RBとは違うアルゴリズムになっているのでしょう。

多分一般的な光量があるときにはG素子のデータが非常に重要なんですね。
 
ちょっと明るくしてみると、やはりG画像は不自然です。恒星の周りは黒抜け、周囲にも不自然に抜けている所があります。
私はベイヤーRGB変換がどんな仕組みなのか知らないのですが、これまでベイヤー配列ファイルを扱った感じだと、2つのG素子はそれぞれRとBの情報と関連してRGB変換されていると思います。それでRとBのデータが欠落していると滑らかに仕上がらないのかもしれません。
その話は一旦置いて、

とりあえずRGB合成してみました。色調は補正しましたが、それなりに普通に見えます。アイリス星雲で試したときは星雲自体の色が青に偏っていたので、ちょっと心配だったのですが、左のM42を見る限り、この方法でも星雲の色調は表現できるようです。これで背景が滑らかになれば目的達成となるわけですが・・・

ちょっと希望がわいたところで、G画像の問題に戻ります。 
 不自然なG画像からRGB合成するとやはり不自然さは残ってしまいます。

この問題を何とか解決できないかと風呂に入って考えた結果、とりあえずG画像でないことにしてモノクロ変換してみるというアイデアを思いつきました。つまり、SI6でGRBGかGBRGを選択して変換してみるのです。
思いつきにしてはうまくいったようです。

拡大したベイヤーモノクロ変換後のG画像と、それを使ってRGB合成したカラー画像です。恒星周囲の不自然な黒抜けはなくなりました。やはりG素子の変換にはRとBの変換とは異なるアルゴリズムが使われているのでしょう。

この方法では本来G素子のデータを持っている部分がRとBであると定義してベイヤーモノクロ変換するので、G素子の場合に現れる黒抜けを回避できるのだと思います。
 
では、肝心の分子雲周囲の色むらを見てみましょう。

左が今回のRGB分解モノクロ変換後のRGB合成、右が通常のベイヤーRGB変換です。どちらも同じ元画像を基本処理したコンポジットなしの1枚画像です。背景を滑らかにすると現れる色ムラを見るために、NoiseNinjaで処理してあります。

同じ元画像ですが、かなり違う印象です。左の背景は明らかに滑らかです。両画像共に色ムラはありますが、分子雲の表現力は左画像が格段に良いようです。

残念ながら左はノイズの黒抜けが強調されているようです。どこで強調されてしまうのか調べなければなりませんね。

ひょっとすると、この方法は可能性があるかもしれません。
 
 
   2009.12.8
RGB分解再合成法の意味はあるのか!?
では、本格的な処理をやってみましょう。
画像はM42周辺の分子雲です。左画像は基本処理後、普通にベイヤーRGB変換して、PS,PIで画像処理して分子雲と星雲の構造を強調した、ホームページ掲載画像です。

2009.10.17撮影 
VixenED102SS+EDレデューサF4DG (F4.3)
Orion StarShootPro
20min.*5
(外気温8度)
アトラクス、60mmガイド鏡
DSIPro+PHDguiding
 
5枚を基本処理後に専用ソフトでRGB分解し、それぞれモノクロ現像した後にコンポジットしてR,G,B画像を作ります。これをSI6でRGB合成しますが、ベイヤー配列のデーター位置分だけ画像がずれるので、位置合わせが必要になります。デジタル現像後フォトショップで通常通りの画像処理を行いました。ホームページの画像と同じくするためにビニングして比較しました。

左がRGB分解再合成画像、右が通常の画像処理画像です。右は大きな色ムラを除去するために背景部分をぼかしてありますが、左はその処理をしていません。

いかがですか?
もう1つ。
等倍画像での比較です。

私の感触では、滑らかさはぼかした画像の方が良いですが、分子雲の構造は左画像が格段に優れているように見えます。星像はほとんど同じでだと思います。

今回の方法では他の色を0にしてベイヤーモノクロ変換するという、掟破りの方法を使っているのですが、何となく背景と分子雲のギリギリ明るさの所での解像度が向上するような気がします。決して色ムラが無くなるわけではないのですが、等倍画像で比較しながらじっくり見ると、色ムラに意味があるように配列されているのが、もっともらしく感じられませんか?

おそらく、非常に淡い部分でのベイヤーRGB変換は、色素子間の相互作用で直径10ピクセル程度の広い範囲で色ムラが起きるような気がします(専門家の方教えて下さい!)。
そこで、今回の画像を元画像として、本気で処理してみました。ちょっと星像が大きいのは大目に見て下さい(どこかで失敗しました)。

私の感想は

「これはすごい!うそだろ!」といった感じです。

以前処理したM42と比較して分子雲の滑らかさが全く違います。 NoiseNinjaは使用しましたが、普段やっているぼかし処理は無しです。今までの画像ではNoiseNinjaだけでは大きめの色ムラが気になって見るに堪えませんでした。下の等倍画像で見ていただければ背景と分子雲の境界が非常に自然であることが分かると思います。何よりも背景部分にシミのように広がる緑や青の色ムラがありません。その分、より暗い分子雲の存在がおぼろげに浮かび上がっているような背景になっています。

ここで疑問です。
・これほど効果があるのに、なぜ天文用の画像処理ソフトのベイヤーRGB変換はこの方法を使わないのか?
・この合成方法は一般写真では何か問題があるのか?

以前、我流処理でベイヤーモノクロ変換を考えたときには、特定の画像でしか効果が出なかったので、今回の処理もいくつかの対象で検証を続けて見たいと思います。この処理の最大の欠点はファイル数が3倍になり、処理が煩雑になることです。めんどくさ・・・
   
M33を再処理してみました。20分8枚の画像なので、RGB分解すると24枚もファイルが生成されてしまいます。

処理した感触は良好です。コンポジットの誤差のせいで星像は大きいですが、銀河の周辺部分にこれまでとは大きな差があります。あえて腕の淡い部分のザラザラ感を残したままにしてあります。勿論消してしまうことは出来るのですが、今回の「RGB分解・モノクロベイヤー変換・RGB再合成法」(名前長過ぎ・・・)の特徴が分かります。

周辺部分は青い色ムラではなく光が足りない感じに見えませんか?もう少し光があれば、欠落したピースが埋まっていく様なムラです。 これまでのように意味のない緑のシミのようなムラには見えません。
拡大画像です。

 
この画像は、これまでの処理で、一見クッキリしていますが、周囲はノイズを潰してあるだけで何の情報もありません。左は全く同じ画像から作り出したとは思えないほど、背景部分に情報が埋もれています。確かに綺麗に仕上げるには光が足りない色の欠片ですが、意味がありそうな部分もあり、これまでのようにランダムな色ムラという感じではありません。

気のせいですかね。

 今回、急に思い立って、背景ノイズの軽減を目的として、カラーCCDから出力されるベイヤー配列ファイルをR,G,Bに分解する方法を試しました。その結果、

1,通常のベイヤーRGB変換より、背景部分の色ムラは軽減され背景に埋もれるごく淡い領域を表現できるようになりました。
2,分解後はファイル数が増え、コンポジット作業が増加するのに加えRGB合成では色毎にズレが生じるため星像が肥大化してしまうので、合成時に細心の注意が必要です。原理的にも星像肥大の懸念はありますね。

今回の方法はベイヤーRGB変換時の色の補完を行わないカラー合成と言えるのかもしれません。おそらく明るくてコントラストのはっきりした細かな部分を表現するには不適当な方法だと思いますが、暗くて色がはっきりしない所では色の予測とか補完とかは何もしない方が良いということだと思います。
   
追加
2009.12.10
淡くてカラフルと言えば、この領域ですね。この春は撮影時に失敗して総露出がわずか80分ということで、画質の悪さは諦めていました。

miniBorg60ED+DGT(F3.9)
Orion StarShootPro
10min.*4+20min.*2
しかし、今回の方法を試したところ、ここまで改善しました。自分が考えた画像処理でこれほど効果を実感できることは滅多にありません。

ダーク撮影時の温度に問題があったので、若干ダークノイズが目立ちますが滑らかさは格段に向上し、色付けしているわけではありませんが、淡い部分の色調を判別できます。さらに嬉しいことに暗黒帯の強調をしているわけではありませんが、かなりクッキリしました。明るい部分については解像度面で若干落ちるようですが(星団中心部など)、上のM42を見てもお分かりのように、カラーCCDで解像度勝負をするわけではないので、今は良しとします。 
   
だめ押し、の追加
先日、フラットを補正して画像処理をやり直したばかりのSh2-240です。10分12枚という大バカな画像なので、36枚再コンポジットとなりました。辛かったです・・・。
結果、デジタルマジックに載せた画像 より、フィラメントの構造がごく淡い部分まではっきり分かります。残念ながら、星像は大きいですね。

これだけなら苦労が多い割にと言ってしまうところですが、、最大の相違点はPSの調整レイヤー枚数が2/3に減ったと言うことです。前回の画像処理までは、この超淡い星雲を見栄えよくするために、通常の画像処理に加え、淡い部分を増幅する処理と背景ノイズをぼかす処理を行っていました。今回の元画像では、それらが全く必要なかったのです。同じ12枚の画像から得られた元画像にもかかわらず、普通の星雲とほとんど同じ画像処理で、ここまで表現できたのです。
 
星雲画像の淡い部分に関しては、今回試した画像全てで明かな効果を実感できました。RGB分解によって、通常のベイヤーRGB変換を行わないことで、カラーCCDの問題点の1つをクリア出来た感じがします。全体の流れを模式図で示します。扱うファイル数が非常に多くなるので、処理は煩雑になります。

私は、しばらくこの方法を使って画像処理を行っていくことに決めました。

SSPをお使いの方には、このソフトを配布出来るようにしたいと思っていますが、実は16bit整数の保存形式で、SI6とMaxIm DL Essentials Editionで、何となく曖昧な部分があって、処理出来ない事があるのです。この部分の作り込みがめんどくさいのでもうしばらくお待ち下さい。
   
EOS KissDXでもやってみました
209.12.16
   一眼デジカメの場合、フォトショップでのベイヤーRGB変換もあるので、3つの画像を比較してみました。
フォトショップ現像は「星景写真の色」を表現する時に使用する以外、滅多に使わないのであまり上手くないかも知れません。
とりあえず、並べます。
まず、フォトショップでのベイヤーRGB変換です。倍率は700%です。
ガイドが流れてますが、気にせずに。

恒星周囲に黒トビが出ているのはコントラストを上げすぎでしょうか?
背景は綺麗になっていますが、綺麗すぎると言えないこともありません。
ステライメージでは、緑系のドットが多いですね。これをぼかすと大きな色ムラになります。 

アストロアーツさんが、淡い部分の表現に有利な、ベイヤーRGB変換法を開発してステライメージに入れてくれるとありがたいですね。
現状の変換は背景付近で、ピクセル間の色のなじみが悪いような感じがします。PSのように何もなくなってしまうのも困りますが、単なるムラでは意味がありません。
問題のRGB分解、ベイヤーモノクロ変換、再合成画像です。

CanonのRaw画像をそのまま処理するソフトを作るのは面倒なので、SI6に読み込んで、16bitのFits形式で保存しなおした画像を使っています。手間はかかりますが、やっぱり良いですね。「赤いムラがあるじゃないか!」と思うかも知れませんが、実はムラではなくSh2-129内部のごく淡いガスの一部です。

StarShootProだけでなく、一眼デジカメのベイヤーRGB変換でも、この方法の効果が期待できることが分かりました。

問題は「なぜ?」ということです。
   
2010.1.12 最終評価
 

RGB分解法


通常の
ベイヤーRGB変換
2009.10.25に撮影したバラ星雲です。

この対象は明るいところから暗い周辺部、さらには有るか無いか分からない周囲の分子雲、中心分の暗黒帯といろいろなパーツが組み合わさっています。今回のRGB分解法は全ての面で通常処理と同等もしくは上回っていると思いませんか?20分2枚、総露出わずか40分でこのクオリティーが出せれば、撮影が楽ですね。果たして8枚コンポジットした画像で、RGB分解法が更なる画質向上をもたらしてくれるかどうか、ちょっと疑問を感じないわけでは有りませんが、この画像処理の長所が淡い部分と背景の質感の向上であることは間違いなさそうです。

その種明かしは・・・

2つの画像はPSで処理、NoiseNinjaは両画像とも使用し、PIで暗黒帯強調をしています。 これまでの画像処理同様、星像の大きさは通常処理が小さいですが、周辺部分の滑らかさはRGB分解法が勝ります。そこでRGB分解法の画像に、星マスクの世界で紹介した方法で通常処理の恒星をはめ込んでみました。
   
結局・・・

PhotoShop CS5を導入しCameraRaw6以降のノイズ軽減を使えるようになり、RGB分解法の出番は無くなったと感じています。特にカラーノイズの軽減がRGB分解法と非常に良く似た効果を持っているので、カラーCCDで撮影する場合にモノクロより劣っていた背景の色ムラを殆ど気にする必要が無くなりました。

2011.1.23