バイアス補正

なぜ唐突に、バイアス補正の話を始めるかというと、それなりに理由があるのですが、それは話が進んでからお話しすることにして、まずはバイアスノイズについてお話を始めたいと思います。

私もそれほど詳しいわけではないのですが、液体窒素冷却の研究用冷却CCDを使う場合、ダーク補正はしなくても良いようですが、このバイアス補正が欠かせません。バイアスノイズとはCCD固有で周辺の電気回路などの影響を受ける電気ノイズのようです。このノイズは0秒露出で撮影した場合に見られるごくわずかなノイズで、アマチュアが使う一眼デジカメなど、その場でダーク画像を一緒に撮影する場合考える必要はありません。フラット補正でも、同時にフラットダークを撮影すれば考える必要は無いようです。問題は、ダークライブラリを使って画像補整を行う冷却CCDの場合、現地でダークを撮影しないので、バイアスノイズの再現性が悪いと言うことらしいです。つまり、バイアスノイズは撮影時の配線、電圧、パソコンのノイズなどの影響を受けるので、現地で撮影したダークにはその情報が含まれますが、自宅で撮影したダークライブラリーの情報とは若干異なると言うことのようです。

間違いないでしょうかね?ちょっと自信ないですが、先に進みます。


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StarShootProで撮影した600秒のダーク画像です(ベイヤー配列のままの状態です)。

左上にこの機種特有の熱ノイズが出ています。レベルは700−924と、一眼デジカメなどに比べると、きわめて低レベルなノイズであることが分かります。
これが同時に撮影した0秒画像、バイアスノイズに近い画像だと思います。 
レベルを上のダーク画像と同じレベルでみると、10分間のダークファイルとの関係が何となくわかります


このバイアスノイズはダーク画像のノイズと比較すると、比較的均一なノイズで、レベルもダーク画像のノイズの中に含まれるということがポイントですかね。調べてみると「同じ状態で撮影すると再現性がある」となっていましたが、20枚撮って差の絶対値で比較したところ、ノイズが消える(同じ位置にノイズが発生してる)画像はありませんでした。もの凄く微弱なノイズなので、沢山撮影して平均したもので比較すると傾向が出るのかも知れません。

この辺はもう少し勉強してみます。
その20枚コンポジットしたバイスノイズ画像です。コンポジット後にベイヤーRGB変換してあります。RGB変換するとノイズのレベルが若干変わるようですね。

こんな感じの画像、どこかで見たことありませんか?

そう、ちょっと大人の画像処理第4回・・・

話の先が見えましたか?でも、その予想は、多分裏切られます。 
 
2010.1.15 バイアスノイズの引き算  予備知識として・・・


明るさを揃えた
拡大画像

レベルを揃えた
全体像
SSProで、電源とパソコンを変えてバイアスノイズの再現性を見てみました。

まず上の画像から、

上の段は、日を変えて交流100V自宅パソコンで撮影した画像20枚を加算平均でコンポジットした物を差の絶対値で比較しました(上段右端)。

下の段は、交流100V自宅パソコンと12Vバッテリーで遠征用ノートで撮影した画像20枚を加算平均でコンポジットした物を差の絶対値で比較しました(下段右端)。

右端の画像を上下で比較すると若干上段の画像が暗いです。ということは、上段左2枚の画像の方が下段左2枚の画像より一致していると言うことです。ただ完全に一致しているわけではありません。逆に下の画像でもある程度暗くなっているので、100Vと12Vでバイアスノイズが全く異なるというわけでもないようです。 バイアスノイズは撮影条件を同じにした方が再現性は高くなるようですが、連続して撮影したノイズでも完全に一致するわけではないので、100%影響を排除することは難しいと思います。

下の画像、
この3枚の画像について、レベルを揃えてみると、12V遠征用ノートパソコンのノイズレベル方が格段に低いことが分かります。家庭用100Vはバイアスノイズを大きくすると言うことでしょうか?パソコンの違いも検討すべきかも知れませんが、とりあえずCCD周りの環境がバイアスノイズに影響することは間違いなさそうです(2010.1.19低ノイズはSSPの電源の影響ではなく、遠征用ノートが家で使用しているパソコンより低ノイズであることが分かりました)。

この3枚について見方を変えて、
ヒストグラムの形状とノイズパターンを拡大して比較しました。

交流100VをSSProの電源に使用するより、12Vバッテリーの直流を使った方がバイアスノイズのレベルが低いようなので、とりあえず庭先撮影する場合でもバッテリーから電源とった方がノイズの少ない画像を作れそうです(使用するパソコンの影響も調べないと結論は出せませんが、)(2010.1.19低ノイズはSSPの電源の影響ではなく、遠征用ノートが家で使用しているパソコンより低ノイズであることが分かりました

これは経験上思い当たることがあります。自宅で撮影したダークを同じ温度だからと、遠征時の画像に使ったりすると背景の荒れがひどいような気がしていました。ダークは現場で撮影するに越したことはないようです。時間が無い場合でもバイアス補正用の画像を撮影しておけば後日ダークの使い回しの際に影響を最小限に出来ますね。

つまり遠征時の星雲画像からその時のバイアス画像を減算しておいて、家で撮影した遠征と同一温度のダーク画像からダークから、同時に撮影したバイアス画像を減算した画像を使って、星雲画像のダーク補正すれば良いと言うことです。これは以前から言われている事ですけど、実証出来たと思います。

ただし、私の結果では(SSProでは)100%ではないので、やらないよりはマシというレベルでしょうか?
 
次も予備知識の話になるかも知れません。

ベイヤー画像に直接データを書き込んだことはありますか?

RGBに一定の数値を入力して3色の縦横線を入れてみました。このファイルを通常のベイヤーRGB変換すると左のようになります。背景はバイアスノイズで線の明るさはRGB共通で1000です。ベイヤー配列では各色1つ飛びにもかかわらず綺麗に線になるものです。

ちなみに下は同じ素子サイズのモノクロCCDに1pixelの線を引いたらどうなるかを試してみました。
細いですね。その上カラー化しても線の太さは変わりません。これがモノクロCCDが解像度の面で優位になる理由です。

カラーCCDの場合、CCDの上の線が1pixelでもベイヤーRGB変換すると線の幅は最低でも3pixelになってしまうのです。カラー一発撮りでは冷却カラーCCDの独壇場にならず、ノイズは多くても素子サイズの小さい最新一眼デジカメにも解像度の面でアドバンテージがあることが理解できると思います。冷却改造一眼に活躍の場があるのはそのためだと思います。更に技術が進んで一眼デジカメの素子サイズが、天文用冷却モノクロCCDの半分以下になれば、カラーCCDの解像度もバカに出来ない可能性がありますね。
話は変わって、

このベイヤーファイルを、RGB分解法でカラーするとどうなるでしょう?

ちゃんと線になるのかドキドキでしたが、ベイヤーRGB変換よりすっきりした線になり驚きました。よく観察すると線の中心にハイコントラストの部分が無く、背景のノイズレベルが低くなっています。これまでの画像処理で得た感触でRGB分解法がハイコントラストでぼけた感じとなり、星雲の淡い部分に効果的であることが何となく分かります。幅はベイヤーRGB変換と同じ3pixelです。
   
いよいよ、本題なのか!

では、ノイズに近いレベルで線を書くとどうなるでしょう?

現実的にはバイアスノイズは0秒露出ということなので、画像が共存することはあり得ないのですが、熱ノイズが絡むとめんどくさくなるので、まずはバイアスノイズと画像の関係で見たいと思います。

明るさ830の線です。ヒストグラムをみると830はノイズの山の裾野の辺りです。線の存在はかろうじて分かりますが、かなりノイズに飲み込まれていますね。このカメラは16bitなので65535の広大なレンジがあるのですが、1000から830に僅か170減少しただけで、これほど見えなくなってしまうのは驚きです。 
明るさ830の線データを書き込んだベイヤー画像から、バイアスノイズ20枚をコンポジットした画像を減算した上で、ベイヤーRGB変換しました。

効果はありますね。

埋もれていた線がはっきり見えるようになりました。これをコンポジットすればもっとはっきりすることでしょう。 普段やっている画像処理は、正にこういう事だと思います。
ちょっと脇道に逸れて、この画像です。

これは低ノイズとなる遠征用パソコンで撮像したバイアスノイズです。この画像に明るさ830の線を引いてみました。もの凄くはっきり見えますね。上の減算処理した画像とは比較になりません。
このことからも、バイアスノイズは減算処理より、ノイズ軽減の工夫をした方が、良い画像が得られる可能性が高いと思われます。多分熱ノイズについても同じような理由から、研究用CCDでは液体窒素を使って熱ノイズをほぼ0にしているのだと思います。たた、バイアスノイズを低減する方法は限られますし、全く無くすことは不可能だと思います。

この話はこれまでにして、先に進みます。
 

明るさ830の線データを書き込んだベイヤー画像から、バイアスノイズ20枚をコンポジットした画像を減算した上で、RGB分解法で3つのファイルに分けた後、ベイヤーモノクロ変換し、RGB合成した画像です。レベルがメチャメチャです。ベイヤーRGB変換した画像と比較して優位な点はほとんどありません。つまりRGB分解法が淡い部分に有効な理由は、ノイズとの境界線にある淡い画像を引き出す事に因るわけではないと言うことです。 
では、答えは何処にあるのでしょう?

私も良く分かりませんが、上の2枚の画像をNoiseNinjaで処理した画像にヒントがありそうです。上の画像はベイヤーRGB変換した画像、下はRGB分解法で処理しました。パラメータはどちらも同じです。

想像ですが、ベイヤーRGB変換ではノイズの部分でもメリハリを付けるために明るい部分を作り出すのでしょう。線の中心のコントラストが高かったのと同じです。それに対して、RGB分解法ではノイズはノッペリとした感じにカラー変換されるのです。
NoiseNinjaで処理すると(これは他の方法で背景の平坦化を行っても良いのですが、簡単に同一の処理が行えるので使っています。)その差がはっきりと分かります。

RGB分解法でカラー合成を行うと、バイアスノイズを含めて暗い部分(明るい部分でも)でノッペリした画像を作り出せることが、 淡い部分を強調できる理由の一つだと思います。
   
このページの本題って、これだったの!?
すいません。これだったのですが、意外と薄かったです・・・私も、もっと何かあるかと思いました。

ただ、バイアスノイズとその補正については、かなり深いですね。熱ノイズ、ホットピクセルとバイアスノイズを別々に考えていくと、実は熱ノイズを近似できるような気がします。熱ノイズは液体窒素やFLIの-50度冷却を使っていない私にとって、悩みの種です。ノイズは無いに越したことがないと、上の方で書きましたが、面倒なダークファイルを合成することが出来たら、便利ですね。

話のテーマはノイズ全般に向かいます。

   2010.2.9 久しぶりの更新
気を取り直して、もう1度バイアスノイズから、

上が遠征用パソコン+SSPro(12V電源)、下が家のパソコン+SSPro(12V電源)で撮影したバイアスノイズです。
CCD短辺に平行にスジがあり、2つの画像で微妙に位置が異なります。このスジには再現性が確実にあったので、バイアスノイズを含めてダーク画像は撮影時と同じ機材構成で撮影することが必須のようです。

この画像からはノイズの大きさに差があるようには見えませんが、ベイヤーファイルでの平均値の差(それぞれの画像左上)は明かです。これが撮影された画像に直接影響するかどうかについてですが、ひょっとすると、下のパソコンで星雲を撮像した際に全てのデータがこの値に上積みされるのであれば、パソコンさえ同じ物を使用すれば、さして問題ないことになります。
その可能性もあります。同じ対象を撮影してみれば分かりますが、かなりめんどくさいですね。

さて、次は熱ノイズを見ていきましょう。
左下は見慣れたダーク画像ですが、下の画像はいかがでしょう?ノイズの増加がよく分かります。

上下を比較すると明らかに下の20分露出のダーク画像にノイズが多いことが分かります。液体窒素とかで冷却能力が高ければ、露出時間を延長してもノイズの量は変わらないと思うのですが、Orionの民生品ですから仕方ないでしょう。

しかし、平均値はほとんど変わりません。意外です。私は熱ノイズは明るい点がどんどん増えていくと思っていたのですが、ちょっと違うみたいですね。確かに左のヒストグラムをみると20分は5分と比較して右方向だけでなく左方向にもヒストグラムが広がっているので、差し引き0??、そんな事ってあるのでしょうか?
RAP2にノイズ評価機能がありましたが、自分でやるなら最低でもS.D.を計算しないと駄目ですね。
まずは、ソフトの間違いも考えられるので、もう1度検証してみたいと思います。