究極の青ハロ除去   2011.10.5

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 天体写真を撮る方のレンズ性能評価で大きなウエイトを占める性能の1つに赤滲みや青滲みの程度があります。フローライトやEDレンズであっても、屈折望遠鏡である限り一部の超高性能機以外は若干の滲みが出てしまうのは仕方の無いことです。青にじみを軽減するフィルターなどもありますが、デジタルデバイスでは実に鮮やかに恒星周囲の青ハロとして写ってしまいます。

画像処理でこのハロを軽減するソフトはいくつかありますが、他の部分に影響を与えずに青ハロのみを消し去ることはほとんど不可能でした。ところがトップの画像に示すロールオーバーではその青ハロがほとんど周囲に影響を与えることなく消え去っていることがわかると思います。

異端天体写真家を自称する私が、今回ほぼ完全に青ハロだけを消し去る方法を考案しました。この処理はモノクロCCDのLRGB合成を行う場合極めて有効なので、書き留めておこうと思います。もちろんカラーCCDで撮像した画像をRGB分解してもある程度可能ですが、L画像をいじらないというのが大前提なので、カラー画像からでは若干問題が生じると思われますのでご注意下さい。


  最初に、

読むと煩雑そうですが、やってみるとそれほど手間はかかりません。少ない知識でいろいろ考えた結果、この処理はデータの損失や人為的画像の改変が青ハロに限定的なので、フラット補正や人工天体の除去と同じように考えてよい気がします。


必要なソフトウェア
 
必要な技術 (これができないと処理を行えません)

1、LRGB合成を正確に行うことができる
2、星マスクを正確に作ることができる
3、FitsファイルとTiffファイルの相違点を理解し、最小限のロスで変換できる
4、ステライメージと他の天体画像処理ソフト間で、Fitsファイルのやり取りができる
5、フォトショップのレイヤー構造とマスク処理に熟練している

最大の技術的問題は
6、画像分析ソフトImageJを操作でき、StarPlotterで星マスクを描画できる
ということになると思います。ImageJはともかく、StarPlotterは公開していますが、なぜか超マイナーで、おそらく全国で使っている方が10人いないのでは?と思われるソフトですからね
まず、今回の青ハロ除去がいい加減な処理ではないことを確認してみましょう。

左はハロ除去前後の恒星画像周辺のRGBの状態をグラフ化したものです。両者を比較して変化があるのはBのラインだけで、RGは全く変化していないことがお分かりいただけると思います。加えて微光星についても全く影響が無いことが確認できると思います。青ハロ除去後の恒星周囲で輝度の落ち込み(リンギング)や画質の変化もありません。青ハロ以外の唯一の変化は明るい恒星の黄色が鮮やかになったことだけです。この点は良い副作用(実際はこの色になるべき所、青滲みで色が濁っていた)と考えています。

青ハロ除去なし
2枚は同じL, R, G, B画像を使用していますが、上は明るい恒星に青ハロが目立ちます。RGB合成のホワイトバランスなどが大きく異なるので仕上がりが異なるのは、この際無視してください。

下の画像は、これからご紹介する青ハロ除去を行っています。効果のほどを明確にするために、通常フォトショップで行うレイヤー処理や星像補正を全く行わずに仕上げています。星は大きめですが青ハロ除去単独の効果を判定することができると思います。

いかがでしょう?

これだけしっかり除去できるのであれば、少々青滲みがでるからといって、長年使った光学系を手放すことは無いと思います。もちろん日本の天文産業に貢献したいなら、デジタル対応の高性能光学系を購入して、すばらしい星像を堪能すれば良いのでしょう。

 
まず、 RGBファイルを開きます。バイアス、ダーク、フラット補正が必要な場合は済ませます。コンポジットを行うようなら、それも先に済ませます。3枚の画像のレンジを0-65535に設定し、それそれ階調に異常が無いことを確認した上で、見えている星像の大きさを比較してB画像での星像肥大化の状態を確認します。それからB画像のみをTiff形式16bitで保存します。

このB画像をフォトショップで開いて同じ状態で開けることを確認します。
 
 フォトショップでB画像を開くと、レンジ幅が広いので対象の星雲などは全く見えず、明るい恒星が散在しているだけですが気にせず処理を進めます。

ここで行うことはこの画像の星マスク作成です。今回の処理では微光星は無視してもかまいません。その代わり明るい星はなるべく正確にマスクを作ります。特に隣り合った星がなるべく、くっつかないように気をつけて処理を進めます。

私の場合はノイズ->ダスト&スクラッチの17程度でぼかした画像と、元の画像で差の絶対値を取り、星を抽出します。
その後、ノイズ->ダスト&スクラッチの6程度でぼかした画像のレンジ幅を調節し明るい主要な恒星を取り出した画像を比較明で重ねます。この画像を反転してこれを隣接する恒星が癒合しないレベルで2階調化したものが左下です。

この画像を8bitTiff形式で保存してImageJで分析可能な画像を作ります。今回の処理に限っては2階調化で、あまり多くの星を描画する必要はありません。小さな星は使いませんので切り捨ててかまいません。画像にもよりますが、数百から2千個ほど入っていれば十分です。
 

元画像
上が、B画像、中が作成するマスク1、下が作成するマスク2です。

これからImageJとStarPlotterを組み合わせて作る2種類のマスクです。元画像にはいくつか星がありますが、マスクでは1つしかマスクが描かれていません。

マスク1は背景が完全な白で、元画像の星像を反転しただけのほとんど同じ大きさのマスクで中心部は完全な黒です。

マスク2は非常に大きな透過用のマスクで、背景は完全な黒、透過部分中央は完全な白で、元画像にあると思われるハロを十分にカバーする大きさです。 

この要件を満たすマスクを作る他の技術がある方は、ここから下のImageJの
解説は必要ありません。

恒星周囲のハロを除去するレイヤー構造は左に示すとおり、星マスクの世界(第3回)に書いてある元画像とぼかし画像の重ね合わせです。元画像の上に、ダスト&スクラッチ17程度でぼかした画像をかさね、この画像をグループ化してマスク1を設定、ぼかし画像には透過用マスク2を設定することで、元画像の恒星周囲にハロをぼかした画像がはめ込まれる事になります。マスクさえ有ればやることは簡単なのですが、手作業でマスクを作ったのではあまりにいい加減ですし虚しい作業です。画像処理でも大きな星マスクを作ることはできますが、完全な濃度と適切なサイズを調整するのは神業でしょう。また無関係な部分を完全に(0,0,0)か(FF, FF, FF)にするのはなかなか面倒です。その点、ImageJとStarPlotterを使うとマスク作成過程が客観的ですし完全なマスク画像を描画してくれます。視覚に頼った主観的な処理は、再現性が無く不確実だと思います。

このマスク処理はB画像だけを対象にするので、やっていることは色情報の補正です。L画像にある星像そのものには手をつけないので、不自然さがでません。


   
 
imageJでの処理

このソフトはwindows上で動く画像解析ソフトNIHimageのようなものです。理系の大学に進まれた方の中にはお世話になった方もいると思います。フリーソフトですが非常に強力です。使い方はなじみの無い方には分かりづらいので今回の処理に必要な部分のみを説明します。日本語の解説サイトもいくつかありますので、探してみて下さい。

まずは対象となる画像を開きます。
 画像が8bitであることを確認します。16bitの場合は8bitに変更します。
 
フォトショップで2階調化してある画像なので、Process>Binary>Make Binaryでデータをバイナリに変換します。これをやらないと融合した粒子の分離作業であるwatershedが使えません。

2階調にするときに注意していると思いますが、念のためProcess>Binary>watershedを実行しておきます。 
次にAnalyze>set measuermentsを開いて、左に示すチェックボックスをチェックします。小数点は真円度があるのでデフォールトの3でよいでしょう。

※チェックが外れていますが、"fit ellipse"にもチェックを入れて下さい。このチェックが間違っているとStarPlotterは動きません。
Analyze>analyze particles を選択し、左のチェックボックスをチェックして実行します。
showはoutlinesが良いでしょう。
数秒で結果が出力されるので、この表を保存します。拡張子はエクセルですが、普通のカンマ区切りテキストと同じです。

左から通し番号、エリア、重心、外接する四角形の座標、四角の縦横、真円度が表示されています。 
  ここまでの作業で、2階調画像にある全ての星の重心、ピッタリ収まる長方形サイズ、真円度がExcelで読み書き可能なテキストファイルとして出力されます。まるで夢のような機能です。あとはこの情報から重心座標の位置に丸い星を適正な大きさで書いていけば良いわけです。この作業を行うソフトは存在しなかったので、StarPlotterを作成することになりました。現在のバージョンでは、描画対象とする星のサイズ指定、擬似サブピクセル処理、描画サイズ・濃度の指定が可能です。
   
 
ここからはStarPlotterを使ってImageJで作成したデータを描画していきます。最新のVer.1.6はVer.1.5とかなり異なりますので、必ずバージョンアップしてお使い下さい。基本的な使い方は新たな星マスクを参考にして下さい。

Ver.1.6のダウンロード

まず、撮影機材の画素数を指定します。縦横ともに手書き入力可能です。カタログ値ではなく、必ずフォトショップの実際の画素数で入力して下さい。 次に解析データボタンをクリックして、ImageJのファイルを読み込みます。今回は複数処理を行いません。重星処理ボタンを押して重星処理ウィンドウを開いて、とりあえず描画ボタンを押してみます。描画した星の大きさがヒストグラムで表示されます。実際のカラー画像をみて、どの程度の大きさの星に青ハロが目立つか見極めて、ヒストグラムのどの部分を描画すべきか考えます。あまり小さな星は青ハロを気にする事はありません。逆に大きすぎる星は手を付けない方が自然に見える事もありますし、処理すべき場合もあるのでケースバイケースで決めましょう。
 
「表示」の両脇のテキストボックスに処理するサイズの最小値と最大値を入力します。
「星の大きさ」を6〜10程度にして描画してみます。ヒストグラムで描画された星の数を確認します。あまり数が多いと問題があるので描画された星の数をみて、多すぎる場合は再考して下さい。 ハロの直径はかなり大きいためこのマスクは十分な大きさが必要です。

描画ボタンを押すだけでクリップボードに画像データがコピーされているので、フォトショップを開いてペーストするだけで画像を送る事が出来ます。フォトショップ上でガウスぼかしを2程度で行い、画像を反転した物がマスク2となります。
 
次に、「星の大きさ」を30前後(だいたい30がImageJから計算された元の星の大きさとなります)で、元画像の星像とほぼ同じか若干大きくなるサイズに調整します。この大きさが重要で、元画像の星より大きければハロの除去が少なく、小さすぎると青い星が無くなります。

この画像をフォトショップ上でガウスぼかし0.3〜0.6程度を行った物がマスク1となります。 
 
ここから先はフォトショップ上での処理になります。

青ハロ除去に必要なレイヤー構造を順に説明します。一番上は一つ下のレイヤーのみを含むグループレイヤーでマスク1を指定します。

このマスクの意味は、黒くマスクされた星の部分について直下の画像を透過して、更に下のレイヤー(B画像その物)を反映すると言う事になります。 
 
次のレイヤーは一番下の元画像を、ダスト&スクラッチ17程度でぼかした画像です。マスク2を使用する事で明るい恒星のハロがありそうな部分について、このぼかし画像をはめ込むと言う事になります。このとき上のグループマスクで星本体は透過する事になります。

 
 
そのぼかし画像です。 
 
元画像となるB画像です。フォトショップ上でレンジの調整などを行ってはいけません。 

グループをオンオフしてマスクの効果を確認します。グループを有効にすると星が小さく、無効にすると大きく見えるようなら処理は成功です。まずフォトショップ形式で保存した後、画像を統合しTiffで保存します。これでB画像の補整が完了しました。
 
このB画像を用いて、RGB合成を行うわけですが、MaxImDLの場合、R,GがFits形式でもBが0-65535の階調幅を持ったTifならばこのまま合成可能です。ホワイトバランスは自分のCCD+フィルターで計測した値を使う事が出来ます。

私はまだ初心者なので、合成時のホワイトバランスが画像処理後最終的にどれほどの意味を持っているかよく分かりませんが、少なくともRGB合成完了時に不自然な色調にならない事は確かです。青ハロが出る光学系だと、この時点でも青ハロはかなり目立ちますが、LRGB合成時に使用するL画像でも星がそれなりに大きいので、LRGB合成する事で青ハロは軽減します。逆にRGB合成時で青ハロが全く目立たなければ過補正です。マスク1を再調整する必要があると思います。上手く行かないからといってレイヤーのぼかし画像の明るさやコントラストをいじってはいけません。調整して良いのは、マスク1,2の大きさとぼかし加減のみです。
  以上で青ハロ除去の解説は終わりです。

少なくとも私は上手く除去する事が出来たのですが、解説を読んだだけではなかなか難しいと思います。諦めずに何度かトライしてみて下さい。

天体写真をやっている方は誰でも、自分の作品をより綺麗に仕上げたいと願っていると思います。この処理がその一助になって作品作りがより楽しくなればという気持ちで公開しています。私は自分の作品をフォトコンに出す事はないので関係ありませんが、このような処理をした画像を投稿して良い物かどうかは個人の判断にお任せします。もし投稿する場合には、画像処理で光学系の青ハロを軽減している旨は記載すべきでしょう。

デジタル化以前の望遠鏡やカメラレンズでも、残念ながら青ハロが出てしまうレデューサとの組み合わせでも、そこそこ綺麗に仕上がれば私は十分ですし、綺麗に写る事が分かっている機材よりエキサイティングでしょ?

2011.10.10
   

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